特に中国市場で爆発的なブームを巻き起こし、その熱狂が日本や世界へも波及しています。マーケティング担当の方なら、この新たな経済圏の動向に関心をお持ちではないでしょうか。
目次
ブラインドボックスとは「未知のワクワク」を購入する消費体験
熱狂を支える「不確実性」の心理メカニズム
似ている2つの用語との違い
カプセルトイ(ガチャガチャ)
福袋
消費を刺激する「熱狂の要因」4選
シークレット|希少性と射幸心
ソーシャル|共有・交換の楽しさ
ヒーリング|癒しと感情移入
コンプリート|収集欲求
企業がブラインドボックス経済に対応する方法3つ
強力なIP(知的財産)を開発・発掘する
「開封体験」自体をコンテンツ化する
コミュニティ形成を促す仕掛けを作る
まとめ
1、ブラインドボックスとは「未知のワクワク」を購入する消費体験
ブラインドボックスとは、外箱からは中身の特定ができない状態で販売される商品を指します。日本では「トレーディング商品」や「コレクションフィギュア」とも呼ばれ、購入して開封するまで「何が入っているか分からない」という仕組み自体を楽しむものです。
中国の玩具メーカー「POP MART(ポップマート)」がこの販売手法を洗練させ、巨大な市場を創出したことで世界的に注目されました。
単に商品を売るのではなく、「箱を開ける瞬間のドキドキ感(サプライズ)」や「期待感」という情緒的価値を提供している点が最大の特徴です。
Z世代を中心とする消費者は、実用性よりも「精神的な満足感」や「自分へのご褒美」としてブラインドボックスを手に取ります。
2、熱狂を支える「不確実性」の心理メカニズム
消費者がなぜこれほどまでに熱狂するのか、その背景には行動心理学的なメカニズムが働いています。
変動比率スケジュール(Variable Ratio Schedule)
これはギャンブルやスロットマシンと同様の心理効果です。「次は欲しいものが出るかもしれない」という予測できない報酬(レアアイテム)への期待が、脳内でドーパミンを分泌させ、繰り返しの購入(リピート)を強力に動機づけます。
確実な報酬よりも、不確実な報酬の方が人の行動を強化する力が強いことが、この経済圏のエンジンのひとつとなっています。
3、似ている2つの用語との違い
「中身が見えない」という点では既存の販売手法と似ていますが、明確な違いがあります。ここでは代表的な2つの用語と比較します。
3.1、カプセルトイ(ガチャガチャ)
カプセルトイは、主に硬貨を使用し、専用のマシン(自販機)を回して購入するスタイルです。
一方、ブラインドボックスは主に「リテール(小売)商品」として棚に並べられ、ECサイトや雑貨店、専門店で購入されます。
また、カプセルトイが数百円の低単価で「手軽な遊び」の側面が強いのに対し、ブラインドボックスは1,000円〜数千円と比較的高単価で、アート性やクオリティの高い「コレクションアイテム」として位置づけられる傾向があります。
3.2、福袋
福袋は、年始などに「在庫処分」や「お得感(ディスカウント)」を主目的として販売される詰め合わせです。購入価格以上の価値が入っていることが前提となります。
対して、ブラインドボックスは**「定価販売」**が基本であり、お得感よりも「特定のキャラクター(特にシークレット枠)」を当てること自体に価値が置かれます。商品は新作が中心で、在庫処分的な意味合いは薄いのが特徴です。
4、消費を刺激する「熱狂の要因」4選
消費者の購買意欲を掻き立て、ブームを持続させる要因にはいくつかのパターンがあります。
4.1、シークレット|希少性と射幸心
多くのシリーズには、通常ラインナップに加え、混入率が極めて低い「シークレット(隠しアイテム)」が存在します。
「1/144」といった低い確率が提示されることで、消費者の「当てたい」という射幸心や、「持っている人が少ない」という希少性への渇望が刺激されます。このレアアイテムは二次流通市場(フリマアプリ等)で高値で取引されることもあり、資産的な魅力も付加されます。
4.2、ソーシャル|共有・交換の楽しさ
開封動画(Unboxing)はSNSで人気のコンテンツです。「何が出たか」をSNSで報告したり、重複したアイテムをファン同士で交換(トレード)したりする文化が根付いています。
商品そのものだけでなく、その後の「コミュニケーションのネタになる」ことが、購入の強力な動機となります。
4.3、ヒーリング|癒しと感情移入
キャラクターの多くは、あえて口を描かないなど、感情を限定しないデザインが採用されることがあります。
これは消費者が自分の感情を投影しやすくするための工夫です。忙しい現代社会において、デスクに置かれた小さなフィギュアは「精神的な癒し」や「相棒」としての役割を果たします。
4.4、コンプリート|収集欲求
シリーズ全体を並べた際の世界観が統一されており、「全部揃えたい」という収集癖(コレクター魂)を刺激します。
1つ買うと隣に別のキャラクターを並べたくなる心理的ハードル(ディドロ効果)を巧みに利用しています。
5、企業がブラインドボックス経済に対応する方法3つ
企業がこの要素を取り入れ、売上を伸ばすためにはどうすればよいでしょうか。
a、強力なIP(知的財産)を開発・発掘する
核となるのは「キャラクターの魅力」です。
単にかわいいだけでなく、ストーリー性やアート性を持ったIPを自社開発するか、あるいは既存の強力なIPとコラボレーションを行うことが成功の鍵となります。ファンが「そのキャラの世界観」にお金を払いたいと思えるかが重要です。
b、「開封体験」自体をコンテンツ化する
パッケージデザインにこだわり、箱を開ける手触りやプロセスそのものを演出しましょう。
ECサイトであれば、購入後に画面上で箱が開くアニメーションを表示するなど、商品が届く前(あるいは届いた瞬間)のワクワク感をデジタルで再現する「オンラインくじ」のような手法も有効です。
c、コミュニティ形成を促す仕掛けを作る
ファン同士が交流できる場を提供しましょう。
例えば、重複したアイテムを交換できる公式の掲示板やイベントを設置したり、SNSでの投稿キャンペーンを行ったりすることで、一度の購入で終わらせない「持続的な熱量」を維持することができます。
6、まとめ
ブラインドボックス経済の本質は、商品を売ることではなく、「驚き」と「感情的なつながり」を売ることにあります。
消費者の「直感」や「感情」を揺さぶるマーケティング手法として、この仕組みは玩具業界にとどまらず、化粧品、アパレル、食品など、様々な業界に応用可能です。
自社の商品に「未知のワクワク」というスパイスを加えられないか、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。