INTERVIEW / AMAZON JAPAN / 2026
日本のAmazonで10年。
中国のトップセラーが
語る、本当の勝ち筋
INTERVIEWEE
クロスボーダー・ラオルー
日本向け越境EC 10年 / 対日B2B貿易 15年 / 国際物流 18年
中国の越境ECセラーにとって、日本のAmazonマーケットプレイスは、チャンスがある一方で、つまずきやすい市場でもある。円建て決済や限られた市場規模に加え、商品品質や商品説明に対する消費者の目も厳しい。参入はしたものの、思うように成果を出せないセラーは少なくない。
今回、日本市場のユーザーから寄せられた21の疑問をもとに、日本のAmazonで10年の実績を持つ中国のトップセラー「クロスボーダー・ラオルー」に話を聞いた。対日B2B貿易15年、国際物流18年の経験を持つ彼は、現在、寧波と深セン・坂田にEC運営チームを構え、デジタル機器・小型家電とペット用品を主軸に、年間数千万元(十数億円規模)の売上を上げている。
以下、彼が語った一次情報をまとめる。
Q01
ご自身とチームについて教えてください
Amazonに取り組み始めて今年で10年。それ以前は対日B2B貿易を15年、国際物流を約20年手がけてきた。「年齢がバレてしまいますね」と彼は笑う。
現在のチームは寧波(10名)と深セン・坂田(6名のEC運営チーム)に分かれている。人事・財務はグループ全体で管理し、越境EC部門は独立会社として運営する体制だ。寧波には中間倉庫を設け、日本向けの自社商品はすべて、ここで二次検品を行う。商品パッケージ、認証書類、取扱説明書、基本機能を確認し、不具合がある商品はすぐにサプライヤーへ返品・交換している。
「この工程は一見コスト増に見えますが、結果的にはコスト削減につながっています。工場が言う全数検査と、私たちが必要とする全数検査は別物です。最後は必ずどこかで問題が出るんです。」
Q02
新しい市場を探す際、どこから始めますか?セラースプライトはどう活用していますか?
ラオルー氏は率直に語る。中国華東地域のセラーである彼らは、セラースプライトから売る商品を探すのではなく、逆の順番で考えている。
「華東地域はサプライチェーンが非常に発達しています。まずサプライチェーンを起点にし、そのうえでセラースプライトを使って、そのカテゴリーが日本市場で通用するかを検証します。」
具体的に見るのは二つ。そのカテゴリーの市場規模にどれだけ上限があるか、そしてその商品で利益を残せるか。この2点が参入判断の根幹だという。
Q03
「参入する価値がある市場」と判断する際、最も重視する指標は?
判断軸は明快だ。市場の上限と利益である。
「日本市場の規模は、アメリカの10分の1から15分の1程度です。大きなカテゴリーでも20分の1以下というケースがあります。市場の上限が低いということは、単品で見込める年間売上も、最初からある程度見えてしまうということです。」
だからこそ彼のスタンスは、「店舗では商品を絞って深く売り込み、会社全体では複数カテゴリーに分散する」ことだ。単品ごとの市場規模の限界を、カテゴリーの幅で補う戦略である。
実際に、ベストセラーでも1日20〜30件しか売れていなかったペット用品カテゴリーに参入し、複数の商品ページを展開したことがある。最盛期には、そのカテゴリーのトップ20に自社の商品ページが6つ入っていたという。
「私が売り場を広げたことで、カテゴリー全体の市場規模も広がりました。撤退した頃はベストセラーでも1日20件台だったのに、今見たら100件を超えていました。」
Q04
競合が強い市場で「後発でも勝てる」と判断する基準は?
答えはシンプルだ。差別化できるかどうかに尽きる。
「差別化には二種類しかありません。見た目の差別化と機能面の差別化です。私たちはこれを『マイクロイノベーション』、あるいは『ちょっとした改善』と呼んでいます。それができるならテスト販売してみればいい。サプライチェーンが対応できないなら、入らない方がいい。入っても消耗戦に巻き込まれるだけです。」
価格での差別化も一つの軸ではある。ただし、それはあくまで「利益を確保したうえでの競争力」であり、採算を割ってまで価格競争をする意味はないと強調する。
Q05
「絶対に参入してはいけない市場」をどう見抜くか?
最もわかりやすいシグナルは、検索上位20〜50商品を見たときに、日本の大手国内ブランドやVCアカウント(Amazonのベンダー直販アカウント)が大半を占めている状態だ。
「日本の消費者は、同じ商品であれば、価格が多少高くても日本国内の店舗を選びます。これは好みではなく、文化と信頼の問題です。VCアカウントは流入面でも販促施策面でも優位性が大きく、中国系セラーには勝ち目がありません。」
また、以下のカテゴリーは「見るだけ時間の無駄」と明言する。
- ―食品・飲料(酒類含む):食品関連の認証・許認可のハードルが極めて高く、中国系セラーにはほぼ不可能
- ―医療機器:資格要件が厳しい
- ―ベビー用品(おむつ・離乳食等):日本国内ブランドが市場を強く押さえている
- ―一部の家電カテゴリー:技術面と認証面の双方でハードルが高い
Q06
単一ASINの販売数が直接取得できない場合、競合分析はどうするか?
「それこそがセラースプライトの強みではないですか。カテゴリー全体の分析、市場分布、BSRランキングの変動を見て、上位100商品の競合を一通り確認すれば、必要な基本情報は揃います。」
日本の事業者が正確な数値にこだわりがちな点は理解しつつ、「レンジ推計で十分に意思決定できます。セラースプライトの販売レンジやトレンドデータを市場全体の規模と組み合わせれば、参入価値は判断できます」と語る。
Q07
日常的な競合モニタリングで最も注目するポイントは?
重点的に見るのは二つだ。
- ―競合のキーワードごとの露出位置と自然検索順位の変動。主要キーワードの順位変化は、競合の運営状況を映し出す。
- ―競合の販促タイミング。特選タイムセール(BD)やタイムセールの時期は自社商品の転換率に直結するため、把握が欠かせない。
Q08
競合が在庫切れになったとき、どうチャンスに変えるか?
「競合が在庫切れになったら、それはあなたのチャンス。分析より先に動く。」
具体的には、広告予算をすぐに拡大するかCPCを上げ、競合からこぼれた流入を取り込む。条件が合えばタイムセールも実施する。
「競合が復活しても、この期間に獲得した顧客の一部は残ります。それがリピート購入につながる可能性があります。ただし前提は商品力です。低評価レビューが多い状態では、流入を増やしても意味がありません。」
Q09
新商品を出す前のレビュー分析はどう行うか?
「セラースプライトでターゲットカテゴリーの上位100商品のレビューを一通り確認します。競合ごとの強みや不満点が見えてくるので、さらに各商品の詳細レビューを深掘りします。」
セラースプライトで「販売開始前の分析」はほぼカバーできる。販売開始後の継続改善は、実際の販売を通じて蓄積される顧客の声やクレーム、低評価レビューを見ながら進める。
Q10
「この低評価はチャンス」と「この市場自体に問題がある」をどう見分けるか?
「低評価が示しているのが、消費者のそもそもの購入期待を満たせないという問題であれば、そのカテゴリー自体が見せかけの需要にすぎません。どれだけ差別化しても売れません。」
その場合の対応は明快だ。画像で何を訴求するか、商品ページで何を伝えるか、説明書でどこまで補足するかを整理したうえで、中核となる訴求が成立しないなら早めに撤退する。間違った方向に最適化を続けても意味はない。
Q11
商品を差別化するときの考え方は?
「カテゴリーによって違うので、決まった型はありません。唯一の原則は、すべての差別化の出発点が、日本の消費者の実際のニーズであることです。自分が『きれいだ』『使いやすい』と思っても意味がありません。決めるのは消費者です。」
中小セラーへの実務的なアドバイスは、「競合をお手本にする」こと。モデルチェンジが早い上位競合を追い、その競合が出す商品にまず追随して、先に売上を作ることを優先する。
「日本市場は上限が低い。差別化に時間をかけるくらいなら、複数カテゴリーに広げてSKUを増やした方が効果的なことも多い。根本にある考え方は『稼ぐこと』、それだけです。」
Q12
「購買意欲は高いが競争が少ない」ニッチキーワードをどう見つけるか?
セラースプライトのキーワードツール(ロングテール抽出機能を含む)で対応できる。ほかのツールを足す必要はない。
Q13
新商品の商品ページ(タイトル・箇条書き・説明文)は、どの考え方で作るか?
「AmazonのA10(Rufus/Cosmoアルゴリズム)を意識して書き、もっとも近い競合商品のページ構成を参考にします。」
今年4月にRufusが日本サイトにも正式導入されたことで、商品ページ内でどの位置にどのキーワードを置くかが、これまで以上に重要になっている。キーワード枠ごとの設計や、主要キーワードの前後に置く語句の組み立て方は、今後ますます重みを増す見込みだ。
実務では現在、AIツールを使って商品ページの原稿を作成しているという。
「10秒で出てきます。ベテランの運営担当者が書いたものより、一定品質にまとまることも多い。AIは効率化のためのツールであって、運営担当者を完全に代替するものではありませんが。」
Q14
新商品投入初期の広告とSEOは、どう進めるか?
「広告予算は実績から逆算するのではなく、商品の想定粗利率を基準に算出します。」
初期は自動キャンペーンに加え、手動キーワードキャンペーンを3〜4グループ展開する。手動キャンペーンのキーワード数は、カテゴリーへの理解度次第だ。
「初期広告の目的は利益を出すことではなく、Amazon上の検索インデックスに商品をできるだけ早く、正しく認識させることです。商品ページの情報が正確でないとインデックスもずれてしまい、その後の最適化がすべて遠回りになります。」
全体方針は「商品で稼ぐ。広告単体で必ずしも稼がなくていい」。広告ROASの最適化は次のフェーズで取り組む課題だ。初期は流入拡大と検索インデックスの最適化を最優先とする。
Q15
セラースプライトのデータを広告判断にどう生かすか?
率直に言えば、広告キーワードの分析については、彼はセラースプライトよりもSIF(広告専門ツール)を主に使っている。
「SIFは広告と競合広告データに特化しており、この領域ではセラースプライトより専門的です。セラースプライトは幅広い機能で一般的なニーズをカバーしますが、特定の専門領域を深く見たい場合は、専門ツールが必要になることもあります。両者は競合ではなく、補完関係です。」
Q16
毎日、毎週必ず見るデータは?
経営者の視点から毎日確認するのは二つだけ。今日の受注数と広告費だ。要するに、「今日、利益が出ているか」を見る。
週次では在庫の回転状況と残量を重点的に確認する。回転が速いSKUの在庫が少なければ補充を判断し、回転が遅く在庫が積み上がっているSKUについては、販売を動かす施策(広告増額、BD、タイムセール、外部からの集客)を検討する。
Q17
ある商品から「撤退する」と判断する基準は?
「1カ月あれば判断できます。日本は結果が出るのが早い。最初の1週間で受注が入ることも多いです。」
判断軸は一つ。1カ月の販売データを見て、「この先、利益が出る見込みがあるか」。
もう一つ見るのは、低評価レビューや返品の状況、そしてサプライチェーン側で改善できる余地だ。
「改善後に値上げできるか。値上げなしで利益は出るか。どちらも難しければ撤退です。最終的な基準は一言、稼げるかどうか。シンプルです。」
Q18
カテゴリー選定で意図的に避ける分野は?
Q05で述べたとおり、食品・飲料、医療機器、ベビー用品、一部家電は意図的に避けている。中国系セラーにとっては、認証と日本国内ブランドという二重の壁を突破することがほぼ不可能だからだ。
Q19
日本市場と他市場の最大の違いは?どんな失敗をしてきたか?
違いとして彼が挙げるのは二点。
第一に、市場規模の上限は低い一方で、市場そのものは成長中である。日本のEC化率はまだ約10%(米国の3分の1以下)にとどまるが、消費者層の若年化と節約志向の広がりを背景に、毎年少しずつ上昇している。「今の日本ECは、中国ECの初期段階に非常に似ています。」
第二に、広告経由の転換率が予想より低い。Amazon公式は「日本は米国より転換率が高い」と言うが、自社データでは米国より低く出ている。「あくまで私個人のデータです」と前置きしながら語った。
これまで経験してきた失敗は、主に二つ。品質管理(最大の落とし穴)と、FBA物流コストの見積もりの甘さである。
さらに注意点として、2028年4月からAmazonによる消費税の代理徴収・納付(ヨーロッパのVATに相当する仕組み)が日本でも全面適用される見通しだと指摘する。
「体力のあるセラーは、今のうちに現地法人の設立を検討すべきです。」
Q20
セラースプライト以外に使っているツールは?
主に使うのは、SIF(広告データ分析)とセラースプライト(市場・商品選定・競合分析)の2本柱。Helium10(H10)は補完的に使用している。
「セラースプライトは汎用ツールとして間口が広く、一般的なセラーの日常ニーズをほぼカバーします。SIFは広告領域に特化していて、より専門的です。代替関係ではなく補完関係です。」
Q21
今後3年で最も注目している日本のAmazonのカテゴリーや方向性は?
答えは大きく二つだった。
第一に、シニア向け補助用品。日本の65歳以上人口は総人口の約30%、約5000万人。80歳以上も1300万人を超える。このシニア層は、年金に加えてパート・アルバイト収入を持つ人も多く、購買力は侮れない。
「シニア層を侮ってはいけません。彼らはお金を持っています。」
スマートフォン普及率の上昇とともに、これまで店舗中心だったこの層がオンラインへ移行しつつあり、市場はまさに成長局面の入口にある。
第二に、ペット用品。日本ではペットを飼う家庭が多く、カテゴリー全体の流入は毎年増加している。ただし、似通った商品は飽和気味で、差別化が欠かせない。スマートペット用品(自動給餌器、自動給水器等)の領域は競争が比較的少なく、客単価が高く利益率も高い。現在のトップブランドはPETKIT(中国)やSnowpet(米国)だが、中低価格帯の差別化商品には、まだ十分な余地がある。
EXTRA INSIGHTS
補足:インタビューで得られた「意外な示唆」
日本の★3レビューは「低評価」ではない
欧米市場の感覚で日本のレビューを判断するのは大きな誤りだ。日本では★3は「中の上」の評価であり、★4が「良い」。★5は日本人の感覚では「ほぼ完璧」を意味する。
「普通の商品に対して、日本の消費者がなぜ★5をつけるのでしょうか。新商品に★5が大量についているなら、ほぼ確実にサクラ(やらせ)レビューです。」
また、欧米マーケットプレイスのレビューを引き継いでも、現在は日本サイトでの評価スコアへの反映が非常に弱く、数件の低評価で評点が急落しやすいため注意が必要だ。
日本は「取扱説明書の国」
日本の消費者は商品到着後、商品ページではなく、まず説明書を読む。全文が自然な日本語で書かれた説明書がなければ、商品の品質に満足していても低評価レビューがつく可能性がある。翻訳ツールをそのまま使ったような不自然な日本語も、同じく低評価につながりやすい。
実際に彼が経験したケースでは、あるレビュワーが「商品は非常に良かったが、説明書の◯ページ◯行目の◯という文字は誤字で、本来は◯と書くべきだ」と指摘してきたという。
「これが日本のお客様です。だから説明書は、商品戦略の一部として独立して設計すべき領域です。」
本記事はインタビュー音声をもとに編集・構成したものです。
一部内容は取材対象者の確認を経ています。