概要と背景
2024年2月、世界経済フォーラムのEDISON Allianceは、「1 Billion Lives Challenge」という目標に向けた進捗をまとめた“Impact Report 2024”を公表しました。
同レポートでは、2025年までに10億人を対象に「利用可能・手頃・使える」デジタルソリューション(インターネット接続・デバイス・デジタルサービス)を提供するという目標に向け、127カ国/320以上のプロジェクトを通じて約7億8,400万人が影響を受けたと報告されています。
このような動きは、地域格差・デジタルディバイド(technology access gap)を解消しようという国際的な潮流の一端であり、日本の越境EC・Amazon出品支援の視点からも「市場拡張」「新興国アクセス」「デジタルインフラの成熟」という観点で非常に示唆的です。
主な成果 & 数値
127か国における320件のデジタル包摂イニシアチブにより、約7億8,400万人がアクセス可能となった。これは目標の8割弱に到達。
教育分野:9400万人がオンライン教育を通じて影響を受け、前年から4倍に。
金融・銀行サービス:4億6,300万人がデジタル金融サービスを利用可能に。前年対比65%増。
医療分野:1億4,100万人が遠隔医療・ヘルステックを通じて恩恵。前年対比57%増。
「アクセス(Connectivity)」「手頃さ(Affordability)」「使えること(Usability)」という3つの軸でも成果が出ており、アクセス改善が4億8,600万人、手頃さの改善が1億9,600万人、デジタルリテラシー向上が1億200万人という報告。
地域別では、南アジアが78%、アフリカが14%。上位10か国中9か国が発展途上国。
EC/越境物販事業者へのインパクトと示唆
このレポートから、特に日本のAmazon出品/越境EC支援事業者にとって注目すべき示唆が以下の通り整理できます。
▸ 成長ポテンシャルのある地域市場
南アジア・アフリカといった発展途上地域でのデジタルアクセス改善が進んでおり、これらの地域が「次の成長フロンティア」であることが裏付けられています。
越境ECにおいても、現地のデジタルインフラ改善により通販・アクセス・支払い・物流の障壁が徐々に下がる可能性があるため、早期参入・ローカライズ・物流構築を検討すべきです。
▸ 「手頃さ」と「使えること(Usability)」が今後の差別化要因
単に「インターネットに繋がる」だけではなく、「手頃な料金(デバイス・通信)」「現地言語/現地UX対応」が重要であることが数値で示されています。
日本側で出品支援を行う場合、現地言語化・デバイス対応・モバイル最適化・決済手段の多様化(プリペイド・モバイルマネーなど)といった“テクノロジーを使いこなす”状態まで整備することが重要です。
▸ 教育・金融・ヘルスケアという「サービス接点」の視点
このレポートでは、教育・金融・医療といった生活の“ソーシャルインフラ”をデジタル化することでアクセスが改善されたとしています。EC事業でも、単なる物販ではなく「教育コンテンツ付き商品」「金融サービス連携(後払い・分割)」「健康関連商材」といった掛け合わせで、新たな価値提供が可能です。
特に日本の出品者が海外で“ロングテール”を狙う際、単純に価格競争だけではなく、「生活改善につながる付加価値」を訴求することで競争優位を築けるでしょう。
今後の課題と考察
インターネットカバレッジは95%に近づいている地域もありますが、実際に「使用者」としてアクセスできているのは途上国では27%と大きなギャップがあります。
デジタル包摂には、ハードウェア・通信インフラだけでなく、現地の制度・文化・経済・語学的な障壁をクリアする必要があります。
日本のEC支援企業としては、現地パートナーやローカライズ体制を強化するだけでなく、「現地で使える体験」「アフターサービス」「物流・リターン対応」なども包括的に設計する必要があります。
結びに:日本のEC支援エコシステムとしての視点
今回の報告は、グローバルなデジタル包摂の流れが確実に進んでおり、EC・越境物販の文脈でも“アクセス改善=新たな商機”であることを示しています。
貴社のように、データドリブンで市場・キーワード・広告・物流を解析・支援する立場からは、次のアクションが考えられます。
新興地域における“アクセス改善+物販機会”の仮説立案と検証
商品登録・広告設計において「現地UX」「手頃なデバイス環境」「ローカル言語対応」を初期設計に組み込み
レポートのような社会インパクトを訴求材料として、海外販路構築・物流パートナー・CSR的視点を加えた提案資料化
――年末にかけて、こうした“グローバル・デジタル包摂”をテーマにしたコンテンツ(動画・ブログ・EDM)も企画・配信をお勧めします。
※ 本記事の内容は筆者個人の見解であり、所属組織の公式見解を示すものではありません。
情報源:World Economic Forum「EDISON Alliance Impact Report 2024」